なぜ勾留されたの?勾留理由開示の手続きやメリット

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弁護士 若林翔
2019年03月06日更新

「勾留理由開示」とは

カルロス・ゴーン氏も請求した「勾留理由開示」

金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で起訴され,また,特別背任の罪で追起訴された日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏は,勾留理由開示の請求をし,その公判は東京地裁で行われました。
そもそも,勾留理由開示とは何なのか,どのような手続きなのか。
ここでは「勾留理由開示」について詳しく解説します。

何のための手続き?

「勾留理由開示」とは裁判所に対して,なぜ被疑者を勾留したのかという理由を明らかにするように要求する手続きで,憲法34条及び刑事訴訟法82条に定められています。

刑事事件の被疑者として逮捕された場合,裁判所が勾留を認めてしまうと,余程のことがない限り,起訴前に身柄が解放されることはありません。そして,起訴されてしまえば,起訴後の勾留が行われて,保釈が認められなければ,勾留されたまま裁判を待つことになります。そうすると,身柄拘束が長期に及んでしまい,最悪の場合は有罪判決により懲役刑に服し,釈放されるまで一般社会には戻ることができません。

しかし,制度上,刑事訴訟法などの法令に定められたルールにおいて,勾留を取り消して身柄の解放を実現させる方法があります。その方法はいくつかありますが,「勾留理由開示」がその1つとなります。

ただし,「勾留理由開示」は,簡単に言うと,なぜ被疑者(被告人)の勾留をする必要があるのかの理由を裁判所に求め,それが法律や状況に照らして正当なものであるかどうかを改めて判断させるというものです。

つまり,直接勾留の取り消しを求めたり,決定させたりするものではないので,勾留の取消しが実現するのは稀ですが,捜査や勾留延長に慎重にならざるを得ない状況を作り出し,後の取調べや裁判において有利な展開が期待できます。

勾留理由開示請求の手続き

請求権者

勾留されている被疑者に加え,その弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系親族,兄弟姉妹,その他利害関係人となります(法82条1項,同条2項)。

勾留理由開示の請求

請求権者は,裁判所に対し,書面を提出することにより請求します(法82条1項,規則81条1項)。その書面には被疑者が勾留されている事件名と,勾留理由開示を請求する旨を記載し,署名押印が必要になります。また,その書面にて,被疑者との関係を具体的に示す必要もあります(規則81条2項)。

請求の時期

被疑者が勾留されている限りは,いつでも勾留理由の開示を請求することができます。

請求の回数

勾留理由の開示請求は,1回しか行うことはできません(最決昭和29.8.5刑集8.8.1237)。

勾留理由開示公判の具体的な進め方

「勾留理由開示」は,裁判所の法廷で行われます。被疑者も裁判所に呼び出され,法廷で裁判官から裁判所が勾留を決定した理由を聞くことになります。

一般的な流れでは,開廷宣言に続き人定質問が行われた後,開示宣言となります。そして,勾留の理由が開示され,弁護人による意見陳述となりますが,裁判官は具体的な意見を述べることはせず,弁護人に対して意見書を提出するように求めたり,勾留取消の手続きを行うように告げたりすることになります。

勾留理由開示にメリットはあるの?

勾留理由開示のメリット

前述した通り,「勾留理由開示」の手続きによって,勾留の取消しが認められるのは稀です。しかも,法廷では,逃亡や証拠隠滅のおそれがあるといった法令で定められている逮捕や勾留を許可する場合の要件が読み上げられるだけで,事件毎に被疑者が逃亡したり証拠隠滅したりする可能性を具体的に指摘することはないのです。

では,「勾留理由開示」のメリットはどこにあるのか。
「勾留理由開示」請求の書面が提出されると、裁判所は検察にその時点での捜査資料の提供を要求します。裁判所は起訴前から事件に関する資料を見ることになるため、もし正式な裁判が始まった場合、あるいは勾留延長に対して慎重にならざるを得ません。さらに弁護人としては、捜査機関がどうやって立件し裁判に進もうとしているのかなどの方針が分かりますので、裁判に向けた対策が立てやすいというメリットがあります。

ただ,個人的に1番のメリットと考えるのは,家族との対面が可能になることです。

「勾留理由開示」の法廷は普通の裁判と同じく一般の傍聴は可能ですので、いきなり逮捕されてしまい、接見も実現できなかった家族や友人・知人に顔を見せることもできるのです。ずっと会えなかった家族と対面できることは,留置場という閉鎖的な環境に身をやつす被疑者にとって精神的にプラスになるものと思います。

勾留理由開示のデメリット

一方,「勾留理由開示」にデメリットはあるのか。

被疑者は、公開の法廷に、手錠・腰縄という姿で登場することになります。このような姿は,初めて見る人にとっては衝撃的な光景だと思います。そのため,「犯罪の疑いで身柄を拘束されている者」という強いイメージを持たれてしまい、それが社会的地位のある人間にとって耐え難いということがあります。家族に対しても、そのような姿をさらしたくないと考える者もいます。

カルロス・ゴーン氏の狙い

カルロス・ゴーン氏が、勾留理由開示請求を行い、公判に出廷することは、手錠・腰縄姿で公開の法廷に出ることで、「国際的な経営者」のイメージが傷つけられるというデメリットがありました。

それでもカルロス・ゴーン氏が勾留理由開示を請求したのは、マスコミ等の前で、自らの言葉で、特別背任の事実についての無罪を強く主張することのメリットがそれを上回ると考えたからだろうと思われます。

特別背任の事実で争点となるのは,「日産に損失を負わせる意図があったか否か」等,カルロス・ゴーン氏自身の認識・意図が主として問題となり,証拠的にも本人の供述内容が大きな意味をもちます。裁判官の面前で全面無実の具体的な主張を本人の言葉で伝えることの意味は大きく,マスコミの一方的な報道に対する対抗にもなったと思われます。

まとめ

勾留理由開示は、本来の勾留取消という目的とは違う理由で行われることが多いのですが、現実の刑事手続きではほとんど使われていません。

勾留されている被疑者の身柄を解放するには、「勾留決定に対する準抗告」という手続きを行うのが一般的でしょう。しかしその準抗告を行うにしても、その前に「勾留理由開示請求」をしておくことは決して無駄ではありません。

以上の手続きは被疑者自身でも可能なのですが、法律の知識に乏しい一般人には難しく、勾留されたままで身柄の拘束を解く請求を行うのは無理だと考えた方が良いでしょう。刑事事件に詳しい弁護士に依頼するべき手続きであると言えます。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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